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社説2「エネルギー選択 『原発ゼロ』は戦略に値しない」 (読売新聞 2012-09-15)

 ◆経済・雇用への打撃軽視するな
 電力を安定的に確保するための具体策も描かずに、「原子力発電ゼロ」を掲げたのは、極めて無責任である。
 政府は「原発ゼロ」の方針を撤回し、現実的なエネルギー政策を示すべきだ。
 政府のエネルギー・環境会議が、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめた。
 原発の新増設を認めず、運転開始から40年での廃炉を厳格に適用していくという。
 ■肝心な部分は生煮え
 古川国家戦略相は記者会見で、「原子力に関する問題点を先送りせず、真摯(しんし)に取り組む姿勢を示した」などと意義を強調した。
 しかし、東京電力福島第一原発の事故を受けて抜本的に見直すとしていた将来の電源構成については、全体像を示せなかった。
 こんな生煮えの“粗案”では、国家のエネルギー戦略に値しないと言えよう。
 太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現在の約1割から3割に増やすとしているが、肝心の実現策は年末に先送りした。
 原発の代替電源を確保する方策の中身も詰めずに、約20年先の「原発ゼロ」だけを決めるのは乱暴だ。

..(中略)..

 核燃料サイクル政策を継続しながら「原発ゼロ」を目指すというのは、明らかな矛盾である。
 これでは、再処理で作った核燃料の使い道がなくなる。
 国策の核燃サイクルに協力してきた青森県からは、使用済み核燃料の受け入れ拒否を求める声も出ている。不誠実な政府方針に対する青森県の怒りはもっともだ。
 青森県が協力を拒否すれば、使用済み核燃料の保管場所がなくなり、各地の原発は早晩、運転を続けることはできなくなろう。
 さらに、原子力の技術者になる人材が激減し、原発の安全性向上や、今後の廃炉作業に支障をきたす恐れもある。
 ■日米同盟に悪影響も
 日本が核燃料の再処理を委託している英仏両国も、日本企業が持つ原発技術に期待する米国も、強い懸念を示している。
 米国は日米原子力協定に基づく特別な権利として、日本に使用済み核燃料の再処理を認めている。「原発ゼロ」を理由に、日本は再処理の権利を失いかねない。

(以下略)